英語圏の現代詩を読む : 語学力と思考力を鍛える12講(中尾 まさみ著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2021.11.01

書名 「英語圏の現代詩を読む : 語学力と思考力を鍛える12講」
著者 中尾 まさみ
出版者 東京大学出版会
出版年 2017年9月
請求番号  931/495
Kompass書誌情報

本学のみなさんの多くにとって、英語は母語ではない習得言語であろう。その英語で詩を読むとなると、ハードルが高く感じられるかもしれない。しかし、英語に限らずさまざまな言語を身近に学ぶ選択肢のある大学生時代にこそ、「知力と想像力を総動員して」テキストに向き合い、自分なりの考えをめぐらせて「わからないということ」に出合う思考の冒険をぜひ体験してほしい。

本書は、東京大学教養学部の1?2 年生を対象に著者が行った「英詩入門」の講義が基になっている。登場する詩人の出身地域は、アイルランド、アメリカ、イングランド、北アイルランド、ジャマイカ、スコットランド、ニュージーランドと多彩である。各講の末尾に記されている「ディスカッション」にもあるように、詩人の伝記情報が詩の読解にどれほど必要であるのか、また、英語(もしくは別の言語)で詩を書くことがどのような意味を持つのかを考えてみてほしい。その解釈の半分は詩人の意図を超え、読者の自由な思考にゆだねられている。

本書の第I部?第II部では英語の現代詩についての入門的な解説がなされ、第III部?第IV部ではより大きなテーマに関わる詩が紹介されている。順番に読み進めるのもよし、植民地化や権力、翻訳、他者、共同体、語り手、音楽、移民、記憶、無意識、女性、名前、土地、家族、実体など、冒頭に示される各作品のキーワードを眺めて、そのときの直感に頼って読みはじめてみるのも楽しい。多元的な読み方を可能にする著者の講義によって、読者はアイデンティティや自意識、地域紛争、人種、家族、脱植民地化などをめぐる諸問題について考える姿勢が身についていくことに気がつくだろう。

最後にひとつ。本書でも活用されている「オックスフォード英語辞典(Oxford English Dictionary)」は世界でもっとも包括的な英語大辞典として知られており、単語の初出例や語源、意味や綴り、発音の遍歴といった英語発展の歴史的探究を可能にしている。本学図書館データベースからアクセスできるこの辞書のオンライン版を用いて、本書で紹介される詩の中から心に残る単語を検索することで、言語のもつ多義性と歴史的な変遷を辿りながらテキストに対峙する楽しみを味わってほしい。

総合教育研究部 講師 澤田 望

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