人権と国家:理念の力と国際政治の現実(筒井清輝著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2023.05.01

書名 「人権と国家:理念の力と国際政治の現実」
著者 筒井清輝
出版社 岩波書店
出版年 2022年2月
請求番号 080/15-1912
Kompass書誌情報

政治学は「借り物競走」であると揶揄されることがありますが、強みでもあります。政治学での蓄積はもとより、経済学、社会学、歴史学などいろいろな分野から方法を取り入れつつ、どこにでもある権力や政治について幅広く光をあてていきます。それは常に変化している今を理解し、それによって私たちのよりよい明日を創造していくことを手助けしていく学問です。ここでは昨年度私のゼミで読んだ筒井清輝先生の『人権と国家―理念の力と国際政治の現実』(岩波新書)を紹介したいと思います。

私が大学に入った1991年は突然の冷戦終結を喜んだのも束の間、湾岸戦争が起こり、さらにソ連崩壊へと続いていく思いがけない出来事の連続でした。翌年には自衛隊が初めて大々的に海外派遣されました。それは皆さんが経験している今の状況に近いと思います。東日本大震災から十年目の2020年3月11日には新型コロナでパンデミックが宣言され、手探りの対策が続く中、2022年2月にはロシアのウクライナ侵攻が起こりました。私たちは直近の出来事を過大視しがちですが、それでもなかなかに大きな出来事です。

私は日本政治外交史を教えていますが、注目して欲しいのは、政治や社会には変化する部分と変化しない部分があることです。本書の副題と関わりますが、力が正義を生むこと(力は正義なり)、もう少し穏やかに言えば軍事力が国際政治を規定しているのは一つの否定できない現実です。

その一方で正義が力を持つ場面もあり、増えてきているのではないか(正義は力なり)。それが本書の扱う国際人権の歴史です。多元的な国際政治は力と理念のどちらかでできているのではなく、両方が織り込まれています。本書は、第1章から第3章で時期的な変化を描き、第4章ではこのような国際人権の進展と日本との関わりを整理しています。そこにはその時々の誰かの努力があり、日本を世界の中で理解できることも優れた特徴です。皆さんも世界を作っていく一人であり、私達の生活そのものの話でもあります。

新書はコンパクトですので関連するテーマで何冊も手に取ってほしいと思います。面白くないと思えば次の本を読んでください。時間の無駄だったと思う本もありますし、読み返して良さが分かる本もあります。私にとって本を読むことは仕事であるとともに喜びです。ぜひ同じ趣味を持つ人が増えて欲しいと思います。

法学部 教授 村井良太

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