パクリ経済 : コピーはイノベーションを刺激する( K?ラウスティアラ, C?スプリグマン著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2024.03.01

書名 「パクリ経済 : コピーはイノベーションを刺激する」
著者 K?ラウスティアラ, C?スプリグマン
訳者 山形 浩生、森本 正史
出版社 みすず書房
出版年 2015
請求番号 361.5/586
Kompass書誌情報

ラグジュアリー?ブランドの洋服と似たデザインの洋服が廉価なファッション?ブランドから販売される事例や、お笑い芸人が他の芸人のネタを(おそらく無許諾で)テレビ番組で演じている事例を目にしたことがあるかもしれない。日本では前者のファッション?デザインの「パクリ」(模倣行為)は知的財産法によって一定の範囲で禁止されているが、実用品のデザインであるために著作権の保護を受けることが難しく、また、商品のライフサイクルが短いため、デザインを保護する法律である意匠法の保護に馴染まないとされている。後者のお笑い芸人間の「パクリ」については、短くありふれたフレーズや動作は著作権による保護の対象外であり、また商標権を取得することも難しい。

このように経済的に価値のある知的成果物であるにもかかわらず、その模倣行為から法的に保護されていない、または保護が不十分である産業分野がいくつか存在する。レストランのメニューや、ビジネス手法、スポーツのフォーメーションなどもその例である。しかし、これらの産業分野では、模倣行為が法的に自由にされているにもかかわらず、新しい成果物が次々と生み出されており、かえって模倣行為を放置したおかげでイノベーションが活発化したと評価されることすらある。それはなぜだろうか。米国の著名な知的財産法学者の手による本書は、アメリカの事例?法律を題材にしてこれらの理由を分析するものである。

我が国において、他人の知的成果物へのフリーライド(ただ乗り)を問題視する公衆の意識は年々高まっており、インターネット上では「パクリ」が原因で「炎上」が生じることがしばしば見受けられる。しかし、その中には法的に見るとやや行き過ぎと思われる事例もある。一定の範囲で模倣行為を禁止することにより新たな発明?創作活動のインセンティブ(誘因)を提供するという知的財産法の目的に照らすと、その法目的の達成に必要な範囲で模倣行為を禁止すれば足り、過剰な規制はかえって情報の独占による弊害を大きくするおそれがある。本書を手がかりに、法的に禁止すべき「パクリ」と禁止すべきではない(または、禁止しなくてもよい)「パクリ」の線引きをいかにして行うかについて、自身の関心のある分野を題材に考えてみてはいかがだろうか。

法学部 准教授 小嶋崇弘

< 前の記事へ | 次の記事へ>