『教えを信じ、教えを笑う』(シリーズ実践仏教 Ⅳ)
仏教学部の 石井 公成 教授の共著が出版されました。
タイトル:『教えを信じ、教えを笑う』(シリーズ実践仏教 Ⅳ)
臨川書店 ¥2,800(税別)
【編者:はしがき】
シリーズ実践仏教第四巻『教えを信じ、教えを笑う』は、教えを実践することの文化的広がりを二つの観点から説き明かす。
第一章「写経と仏画──わが身で表す信仰」は、経典を自らの手で書き写す行為が信仰心と直に繋がることを解説する。執筆者の 村田 みお 氏は、中国思想史における文字で書かれた仏教の教えと社会に現れた実際の文物(写本や建築造園?遺物など)の関連に格別の注意を払う。直接関連する原典資料を正確な現代語訳で示しながら、お経を口で唱えることと手で書写することの間にはどのような違いがあるか、お経の書写と救いの繋がり、写経する際の清らかさと穢れ、紺紙金泥に代表される金字の経典、自らの血液で書写する血字経などの事例を取り上げ、分かり易く解説する。また、紙等に経典を書くという行為はインドで始まり重視された大乗の特色であるが、それが筆録を重んじる中国に伝わった時、仏教の枠を越えて中国の伝統文化と結び付いたことにも注目する。
真面目な仏教を扱う第一章と対照的に、第二章は「酒?芸能?遊びと仏教の関係」と題して出家者たちが率先して仏教に娯楽を持ち込んだ様を説き明かす。執筆者の 石井 公成 氏は仏教の生んだ芸能や言葉あそび研究の第一人者である。我々は仏教と笑いが関わると不謹慎とか堕落とかと言いがちだが、そうした通俗理解が実態とかけ離れていることに読者は驚くだろう。中国から日本や朝鮮半島?ヴェトナムで更に発展した仏教娯楽文化が概説される。めくるめく豊富な事例紹介は酒や芝居、芸能、音楽、舞踊、仏教語をもじった洒落や冗談にまで及ぶ。わたくしが想像するに、僧たちが仏教をネタに娯楽を展開した背景は、仏教の教えがもともと堅苦しいのと無縁ではなかった。生きるのは苦しく、この世は儚いと達観すればこそ、信者が思わず仏法に耳を傾けたくなるよう、誰もが楽しめる様々な笑いを仕掛け、教えに思わず引き込む術が必要だったのだろう。石井氏の軽妙な話術からぜひ愉快な仏教を存分に味わってほしい。