100km
ウルトラマラソンタイム予測の1方法
大塚芳郎
キーワード:タイム予測式、100kmマラソン、直線回帰、落ち込み係数
1.緒言
最近、ウルトラマラソンは非常に人気が出ています。いくつかの大会では抽選で参加者を決定しているほどです。初めて参加す
る人にとって気になるのが、「自分はどの程度のタイムで百キロ走れるのだろうか」ということだと思います。ランナーズ誌で
も、有吉先生、渡辺先生が考案したタイム予測式が発表されています。しかし、これらの式は、基本的に完走者の練習量とタイム
を平均化したものですから、全体の傾向を見ることができますが、いざ、自分の場合に当てはめようとすると合わない場合も出て
くるのではないかとと思われます。そこで各個人の走力、走りのクセを加味して、自分自身のタイムから100キロマラソンのタイム
を予測しようというのが今回提案するタイム予測式の考え方です。 ただし、ここで考えている100キロマラソンは比較的アップダ
ウンの少ないコースを仮定しています。
2.方法
基本の考え方(前提条件)
この予測式は次のふたつのことがらを前提にしております。
・自然現象は対数を用いて整理するとすっきりと説明できることが多い。
・日頃から走っている人は20キロ程度ならペースダウンすることなく走れる。
この2つのことがらが成り立つものとして次のような手法で予測式を作成します。
2-1 必要なデータ
過去1年間の5、10、20、フルマラソンのタイム。5
?20キロのデータが全部揃わない場合は、ハーフマラソン以下のレースを2つ以上。
2-2 算出方法
2-2-1 基礎走力の算出(直線回帰)
5、10、20キロのタイムを両対数グラフにプロットし、直線回帰式を作成します。(表計算ソフトによってはデータを入力すれば直
線予測をする関数が用意されている)。手動で計算する場合は、距離とタイムそれぞれの対数をとって、普通の方眼紙にプロット
し、直線近似することでy切片と傾きを求めます(2点あれば可能)。
2-2-2 第1近似予測値の計算
2-1で作成した直線回帰式から第1近似の予測値を求めます。この値は比較的短い距離のタイムから作成した式により外挿した値で
あり、長距離になった場合のタイムの落ち込みは考慮されておりません。したがって特に例外的な人でない限り、このタイムは大
幅にずれているはずです。そこで、この値を補正する方法を考えます。
2-3 補正法
これは回帰式からの計算値に対して、距離が長くなることによるタイムの落ち込みの程度を補正するもので、ふたつのものをを
考えます。
2-3-1 落ち込み係数
ひとつは実際のフルマラソンのタイムと回帰式から外挿したフルマラソンのタイムの比をとることで「落ち込み係数」とでもいう
べき係数です)。
log(実際のフルマラソンのタイム)
―――――――――――――――――――――――――――――
log(回帰式から求めたフルマラソンのタイム)
2-3-2 長距離度係数
落ち込み係数は、フルマラソンの距離を走る時のペースダウン率がそのまま100キロまで続くと仮定したものですが、普通の人はそ
のまま走れることはないと思いますのでさらに「長距離度係数」というべきものを導入します。これも距離の対数を考えてみまし
た。
長距離度係数=log(100)
2-4 補正計算
2-2で計算した第1近似予測値に対し2-3の補正係数を用いて予測タイムを求めます。計算式は以下の通りです。
Log(予測タイム)=Log(第1近似予測値)
×(落込係数)^(長距離度係数)
求まるのは対数であるので、真数を求め、時分秒に変換すれば、それが100kmウルトラマラソンの予測タイムになります。
3.結果および考察
サロマ湖百キロマラソンのアンケートからいくつかの計算例を以下に示します。なお、このアンケートは東京学芸大学渡辺雅之
先生が実施したもので、先生のご好意により資料の一部を借用させていただき計算したものです。
計算例1および2は、実際のタイムと計算結果が10分以内で合っている例ですが、ウルトラマラソンの場合、給水、給食、着替
えの時間等で休んでいる時間があると思われますが、ここまで合う人がいるとは驚きです。
計算例3、4、5は、実際のタイムと計算結果が30分から1時間の間におさまっている例です。休憩時間を考えれば、これらの
例が妥当なところだと思われます。この例のなかで、計算例4では、予測タイムより実際のタイムが速くなっており、通常のパタ
ーンとは異なった結果です。この方の5キロから20キロのタイムを見てみますと、10キロのタイムは、5キロのタイムの2倍
より多くなっており普通のパターンですが、10キロと20キロを見ますと20キロのタイムが10キロのタイムの2倍より速く
なっております。条件の異なるレースで記録したタイムなのかもしれません。
計算例6、7、8は実際のタイムが計算結果より1時間以上遅くなってしまった例です。特に計算例8の方は、フルマラソンのタ
イムが20キロまでのタイムで作成した回帰式に近い値であるのに対して、100キロのタイムが大きくペースダウンしたものになって
いるため、今回提案した予測式の性質上、補正できない例となっています。これらの方は、100キロが失敗のレースだった可能
性も考えられますが、今回のアンケートではそこまでわかりません。
アンケートに記載された記録が平坦なコースで出されたものか、距離が正確なコースなのか、また、信頼できる数字が記載され
ているかわからないものもあるため、まだ、このタイム予測式の有効性がわかりません。しかし、20キロ程度のレースまでなら、
両対数プロットすることによりほぼ直線となりますので基礎走力を見るのにはよい指標となるのではないかと考えております。練
習量豊富な人は、この直線関係がフルマラソンまで外挿できることでしょう。このことは、基礎走力を表すと思われる回帰式を用
いることでその人のフルマラソンの最高タイムが予想できることを示唆いたします。また、よく走り込んでいて長距離になっても
落込みが少ない方は、今回考えた二つの補正係数のうち長距離度係数なしで計算したタイムが100kmマラソンのタイムになるかもし
れません。データが入手できれば、走り込み豊富なエリートランナーの場合の計算をしてみたいと思っております。
最後に、今後、アンケートに協力してくださる方は、その記録がどういう状況のもとで出たものか、また、100kmレースが失敗のレ
ースだったか、非常にうまく走れたかも書き加えてくださるとより価値のあるものとなりますし、タイム予測式の有効性も判定で
きますので、今後ともよろしくお願いいたします。
謝辞
本稿をまとめるに当たり、駒澤大学北海道教養部萩原義雄教授から有意義なご意見をいただきましたことを感謝いたします。
付属資料
計算例1
距離(km)
時間
5
22分10秒
10
46分44秒
20
1時間38分44秒
42.195
3時間57分51秒
100
11時間59分 5秒
100(予測タイム)
12時間 7分 9秒
計算例2
距離(km)
時間
5
19分30秒
10
39分31秒
20
1時間20分12秒
42.195
3時間10分18秒
100
10時間23分30秒
100(予測タイム)
10時間15分17秒
計算例3
距離(km)
時間
5
18分48秒
10
39分43秒
21.0975
1時間27分27秒
42.195
3時間13分 6秒
100
9時間48分44秒
100(予測タイム)
9時間15分26秒
計算例4
距離(km)
時間
5
18分25秒
10
38分41秒
20
1時間16分25秒
42.195
3時間 2分 6秒
100
8時間57分30秒
100(予測タイム)
9時間36分39秒
計算例5
距離(km)
時間
5
17分20秒
10
35分 0秒
20
1時間13分 0秒
42.195
2時間44分54秒
100
8時間31分54秒
100(予測タイム)
7時間42分 4秒
計算例6
距離(km)
時間
5
18分30秒
10
37分27秒
20
1時間17分 2秒
42.195
2時間58分10秒
100
10時間25分20秒
100(予測タイム)
8時間54分17秒
計算例7
距離(km)
時間
5
22分42秒
10
46分51秒
20
1時間37分 4秒
42.195
3時間45分27秒
100
12時間56分24秒
100(予測タイム)
10時間49分 3秒
計算例8
距離(km)
時間
5
18分45秒
10
38分30秒
20
1時間20分20秒
42.195
2時間58分28秒
100
10時間27分43秒
100(予測タイム)
7時間42分44秒