西行花伝(辻 邦生著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2023.01.01

書名 「西行花伝」
著者 辻 邦生
出版社 新潮社
出版年 1995年4月
請求番号 913.6/349
Kompass書誌情報

『西行花伝』は、平安末期の歌人、僧侶であった西行を主人公とする小説です 。
西行といえば、「願わくは 花の下にて 春死なん その如月の望月のころ」などが特に有名ですね 。

この物語は、一章ごとに、本人や知人など 、回想の語り手を変えて展開されてゆきます。
23歳で出家するまでは北面の武士であったことなど 、私もこの小説を読むまで知りませんでした 。

しかし、そうした事実を知るというよりも、作品に描かれている 西行の生き様を通して、西行の歌に自然と親しんでいけることが、この小説の大きな魅力だと思います 。西行の和歌の素晴らしさも発見して行きます 。私もその後、『山家集』など西行の和歌を読むようになりました。

英語の詩にも、キーツ(John Keats 1795 - 1821) など優れたものが数多くありますが、和歌も格別ですね。どちらも心を豊かにしてくれます 。

また、最初の章(序の帖)で、苦しみ を抱える人物が、西行に面会する場面では、西行にかけられた言葉に対して、その人物はこう述べます 。
「この人の言葉は この世の苦しさを逃れるための うわべだけの言葉の綾ではなかった 。私はその言葉を聞いていると心の底に暗くわだかまっていたものが薄れ、軽くなってゆくような気がした 」
どのような言葉がかけられたのかは、皆さん各自が読んだ方がよいかと思います 。
私もその言葉に何度も勇気づけられ、救われました 。そうした力もこの作品は与えてくれると思います。

同じ著者による 『嵯峨野明月記』や『背教者ユリアヌス』などもおすすめです 。

文学部 教授 佐藤 真二

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