宇宙倫理学(伊勢田哲治、神崎宣次、呉羽真 編著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2023.11.01

書名 「宇宙倫理学」
編者 伊勢田哲治、神崎宣次、呉羽真
出版社 昭和堂
出版年 2018年12月
請求番号 538/167
Kompass書誌情報

みなさんは「宇宙倫理学」という言葉をご存知でしょうか?多分多くの人は聞いたことがないのではないかと思います。私も宇宙の研究をしていますが、宇宙と倫理を合わせた学問があると知ったのは、この10年くらいです。

宇宙はかつて神様の住む世界で、人間が到達することは到底できない世界でした。しかし、国を挙げたロケットやスペースシャトルの開発競争に始まり、最近では民間企業がロケットを作り、人を宇宙へと運ぶ時代です。様々な人が我先に宇宙へ向かい、人工衛星を含む宇宙資源の獲得や、宇宙ステーションにおける創薬や材料開発の競争が行われています。少し飛躍した言い方ですが、これはかつて新大陸を目指して侵略していった歴史を辿っているともいえます。

このような背景のもと、人間が危険な宇宙に人間を送り込むことに問題はないのか、人間はどこまで宇宙を人間の物にして良いのか、といった様々な問題から宇宙倫理学が生まれました。本書ではスペースシャトル事故、宇宙に漂う人工物体のゴミ(スペースデブリ)、宇宙における安全保障など、実例を挙げて問題を提起しています。しかし、本書ではこれらの問題に対して明確な答えを出していません。

このことを表す以下のような倫理学者と天文学者の対談が本書に記されています。?人間にとってメリットもデメリットもない環境を一瞬で破壊するスイッチがあったとして、そのスイッチを押すことは許されるのか? この問題には様々な意見があると思いますが、倫理学者はこの問題に正解はないと言います。一方で天文学者は、答えがないという結論は無責任であると言います。ここでいう人間にとってメリットもデメリットもない環境というのは、例えば地球以外の太陽系惑星や衛星、そして宇宙空間です。

宇宙ビジネスは新しい産業であり、宇宙開発経験の浅い人類は答えを持っていません。答えを出すことは簡単ではありませんが、宇宙開発が発展途上中である現在のうちに、ある程度指針となる答えのようなものは持っておくべきだと思います。

本書は決して優しい本とはいえませんが、文系学生の皆さんにもぜひ考えてもらいたいと思わせてくれる一冊です。

総合教育研究部 准教授 髙橋博之

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