中国の死神(大谷亨 著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2023.12.01

書名 「中国の死神」
著者 大谷亨
出版社 東京 : 青弓社
出版年 2023年7月
請求番号 387/426
Kompass書誌情報

「何を学びたいかわからない」。「何にも興味が持てない」。大学に入ると急に自主的な学びが求められ、多くの学部では研究テーマを自分で見つけなければならなくなります。そのような環境に現在進行形で悩んでいるという人もいるのではないのでしょうか。「興味が持てない」というのはその中でもなかなか深刻な悩みです。そんな言葉を発する学生さんたちと話していて感じるのは、「興味が持てない」というのは、学問を面白いと思う、その面白がり方がいまいちイメージできていないのではないかということです。

そこで今回紹介したい書籍『中国の死神』の話になります。中国には「無常」と呼ばれる死神が各地で無数に祀られているそうです。その姿はなかなか魅力的です。多くの場合、白無常と黒無常の二人一組で、両方ともコックのような背の高い帽子をかぶり、帽子には「一見生財(ひとたび会うと大儲け)」、「天下泰平」などのおめでたい文言が書かれています(死神なのに!)。著者は、大学院時代にこの無常の存在を知り、中国で無常を追い求める日々を送り、博士論文を完成させます。

中国留学中の筆者は、無常がいるとの情報を手に入れれば中国各地に出かけていきます。無常はお祭りの行列に出てくる被り物だったり、廟に祀られている像だったりします。ただし、広大な中国です。地方に行けば言葉が通じないこともありますし、無常が出てくる祭りが政府からのお達しで中止になっていたり、変なお守りを買わされたり...。そうした無常「採集」の過程が描かれるのが本書の魅力です。読んでいる側もどんどん無常に惹かれていきます。

ただ、筆者がやっていることは単なる「おもしろ民俗ハンティング」ではありません。同書で筆者は、現地調査に加えて、文献調査や漢民族の霊魂観を検討し、無常がなぜ現在のような姿になったのかを論じていきます。そして、無常の研究が従来の中国の民間信仰研究にどのような新たな視点をもたらすのか、その学問的意義と展望も示しているのです。「なんか面白い」をどのように「研究」へ仕上げていくのかという道筋も示してくれています。

冒頭の話に戻ります。特に「何にも興味が持てない」状態になっている人、ぜひこの本を手に取ってみてください。無常を追いかける筆者の姿を通して、何かを面白がるとはどういうことなのかが少し見えてくると思います。そして、世界の面白がり方、その方法がじんわりと皆さんにも浸透していくはずです。

仏教学部 講師 村上晶

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