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誕生のインファンティア(西平 直著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2016.01.06

書名 「誕生のインファンティア」
著者 西平 直
出版者 みすず書房
出版年 2015年4月
請求記号 114/185
Kompass 書誌情報

インファンティアとは、「子どもの頃に感じた、言葉によって写し取ることのできない、在ることの不思議」の意をいう。「存在の問いが発せられる場所としての子ども」の次元で設問し、「自分がいるということ」が、同時に「自分が生れてこないこともありえた」という事実と表裏の道理であることを論証する。

本書は現代の大学生たちの生の声や、がん病棟の子どもたち、生殖医療?誕生前検診?堕胎等現代の諸問題を取り上げ、ひな子を亡くした漱石の場合、少年ハンス(フロイト)、少年フリッツ(M?クライン)、未生怨(アジャセ物語)、ハイデッガー『存在と時間』、偶然性(九鬼周造)、出生性(ハンナ?アレント)、ファラーチ『生まれなかった子への手紙』、対象a(ラカン)、埴谷雄高『死霊』、不生(盤珪)、潜勢力(アガンベン)などの諸思想を参照しつつ考察を深める。「あとがき」で、「父母未生以前、本来の面目。ここに至ってようやく私はこの問いの入口に立ったことになる」(264頁)と結ぶ。この句は周知の通り「父や母が生れる以前の自己の本来の姿を見よ」という禅語である。本書が終始、禅の、仏教の死生観を踏え、現代のライフサイクル研究や死生学などの課題に迫ろうとしていたことが知られる。

道元禅師も、私たちは願ってこの世に生れて来たといい、生れて来た自己、死んでいく自己の、今ここに共々にあるいのちは一体、何なのか、この問題を明らかにすることが仏教に他ならないという。人生の根本命題を明らかにするために、学生諸君には是非共読んで欲しい一冊である。

総長 池田 魯參

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