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ファウスト(ゲーテ著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2016.10.01

書名 「ファウスト」
著者 ゲーテ
訳者 森林 太郎
出版者 冨山房
出版年 1913年3月
請求記号 H562/6-1、6-2
Kompass 書誌情報

「わからないことだらけ」の世界に立ち向かう

世界は「わからないことだらけ」だ。そこで、なにかしらの法則を明らかにすることは途方もない作業で気が遠くなる。時間やコストのわりに、明らかになったことがたいしたことではないことがほとんどだ。そんな途方もない仕事をする気になったのはなぜか。振り返ってみたときにゲーテの『ファウスト』がある。

『ファウスト』は科学者ファウストとその魂を奪いに来る悪魔メフィストフェレスとの冒険話だ。ファウストはメフィストフェレスと魂の約束をする。それは、メフィストフェレスがみせる世界の中でファウストが満足したら魂をメフィストフェレスに差し出す、というものだった。

こうしてメフィストフェレスはファウストの魂を奪おうとあらゆる世界をみせていく。ファウストは向上心の塊のような人物なので、どんな世界をみせられてもなかなか満足しない。様々な世界とそれに立ち向かうファウストの人物像がこの作品の魅力だ。
そこでは、悪魔や人造人間などが次々と出てくる。ゲーテの生きた時代には、そんな得体のしれないものが人々に受け入れられていたのだろうか。

しかし科学の発達した現在だって「わからないことだらけ」だ。筆者の研究分野のベンチャー企業経営の分野では、毎日新しい得体のしれないビジネスが生まれ、そのうちいくつかは世界を変えるまで成長していく。そんな『ファウスト』のような世界を明らかにしようと、数多くの調査がグローバルに行われている。とはいえ、ジャーナル誌に掲載されるほどの知見は全体のごくわずか。発表されなかった「よくわからなかった」という調査結果が膨大にある。つまり「わからないことだらけ」だ。

私の研究領域だけの話ではないだろう。誰もがこの「わからないことだらけ」の世界にいる。そこに立ち向かう努力や迷いの意味を気づかせてくれるのが、『ファウスト』だろう。

経営学部 教授 小野瀬 拡

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