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政治の起源 : 人類以前からフランス革命まで(フランシス?フクヤマ著 ; 会田弘継訳)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2018.07.01

書名 「政治の起源 : 人類以前からフランス革命まで」
著者 フランシス?フクヤマ
訳者 会田 弘継
出版者 講談社
出版年 2013年
請求番号  313/41-1, 313/41-2
Kompass 書誌情報

著者のF.フクヤマは、現在はスタンフォード大学に所属する政治哲学者であるが、冷戦崩壊を予言していたともされる論文「歴史のおわり?」(1989年)を著し、その後出版された『歴史の終わり』(原著、1992年)がベストセラーとなって、世界的な識者として知られるようになった。尚、アメリカ人であるが、フクヤマという名からも予想できるように日系3世である。

本書『政治の起源』は、政治制度と政治体制を根本から問うという意味で『歴史の終わり』以来の彼にとっての重要著作である。人類の文明開始以前からフランス革命に至るまで、中国、インド、イスラム圏を含む世界の政治を「政治制度の発展と衰退のメカニズム」を通じて探るとする。尚、近刊の続編『政治の衰退』では、フランス革命以降から現代までの同様の展開について叙述がなされる。実に、壮大な試みといえよう。

その中で、「国家」「法の支配」「(民主的)説明責任」の3要素が多様な形で実現していくことで政治制度?体制は展開したとする。しかし、その展開は決して単線的?直線的ではなく、政治の劣化や、「国家」「法の支配」「説明責任」の不均衡の問題も描かれている。

重要な点は、フクヤマが進展著しい近年のアメリカ政治学における新しい研究成果を様々な形で積極的かつ貪欲にその史観に取り入れているという点にある。「(近代的)国家」の設立は、むしろ紀元前の中国において先行的に成立していたといった彼自身のオリジナル(に近い)仮説とストーリー展開も極めて興味深いが、全体としては、現代の政治学?社会科学が「国家」や「政治体制」をどのようにとらえているのか、という事への包括的かつ入門的理解、という点でも大変有用である。もちろん、各分野の専門家からすれば細かい異論があるだろうが、専門家にはむしろ書けない、哲学者らしい極めて広い視野からの叙述を味わい、人類の壮大な歴史的展開について改めて考える事ができる。

法学部 教授 富崎 隆

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