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雑草はなぜそこに生えているのか:弱さからの戦略(稲垣 栄洋著)

眼横鼻直(教員おすすめ図書)
Date:2018.11.01

書名 「雑草はなぜそこに生えているのか:弱さからの戦略」
著者 稲垣 栄洋
出版者 筑摩書房
出版年 2018年1月
請求番号 471/104
Kompass 書誌情報

「雑草魂」という言葉がある。具体的にはどのようなことなのだろうか? 本書は雑草の生態に即した真の「雑草魂」を教えてくれる。本書を読めば雑草を見る目が変わり、世界もこれまでとは少し違って見えてくるだろう。

本書によれば、雑草は私たちが通常思っているような意味で強いわけではない。他の植物との競合に弱いのだ。だが、特殊な環境やいつ起こるか分からない危機に雑草は柔軟に対応できる。だから、舗装道路と塀との隙間にも生きられるし、人間が時々耕す田畑でもうまく生きられる。農作物は人間に都合が良いように均質化させられているが、雑草は多様性を増すことで生き延びる。たとえば、同じ雑草の種子でも発芽のタイミングをばらばらにしたり、スズメノテッポウのように、畑と田とでは受粉の仕方を変えたりする。

そもそも雑草は、光の獲得競争のために背を高くしなくては、などといった教科書的な常識に囚われない。「踏まれても踏まれても立ち上がる」こともない。「踏まれたら立ち上がらない」のだ。オオバコのように、踏まれれば地面に横たわるように生え、踏ませることで種子を運ばせる。一人勝ちがありえない自然界で大事なのは、「優劣」ではなく、「違い」であることを雑草はよく知っている。そして必ず花を咲かせて種子を残す。どのような生き方になろうとも、植物として一番大切なことをけっして見失うことはないのだ。このようなことが、本書の言う「雑草魂」である。

ところで、雑草は膨大な種子をつける。種子が発芽する確率は栽培植物よりずっと小さい。私たちが目にする雑草は大いなる幸運に恵まれているのだ。もちろん雑草だけではない。著者に言わせれば、私たちも含めこの世の生命体の全てが、奇跡のような命の輝きとして今の時代に居合わせている。

本書の末尾に置かれた「おわりに―ある雑草学者のみちくさ歩き」を読むと、著者は雑草生態学者にとどまらず、「雑草魂」の具現者でもあることが分かる。雑草と心を通わすその人生のあり様からも、多難な現代を生きるためのヒントを得ることができるだろう。 

総合教育研究部 教授 北村 三子

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